ドーキンス VS グールド (ちくま学芸文庫)

ドーキンス VS グールド (ちくま学芸文庫)

ドーキンス VS グールド (ちくま学芸文庫)

畑違いの本も読んでみようキャンペーンで生物学の本。
表題の2名はいずれも著名な進化生物学者で、その意見の対立を軸に現代の進化生物学の様子が分るという本。生物は高校のときに選択で選ばなかったので、10年以上正規の教育を受けていなかったのだけど、この本は楽しく読めた。御二方とも有名な著作も多くドーキンスは「利己的遺伝子」、グールドは「断絶平衡説」でそれぞれ名前は知っていたが、これほど鋭く対立しているのだとは知らなかった。
著者はどちらの説の学者というわけでもなく、両論について冷静にその差異を説明しているのだけど、最後の章で各々の説はどちらの部分がより信憑性があるかをはっきり表明している。おかげで著者の意見にすっかり説得されてしまった。やはり敬虔な科学教徒である私は基本的にはドーキンスの意見に賛同したくなる。断絶平衡説などの仮説は魅力的なのでそちらは採用しつつ、基本路線はドーキンス支持といったところか。これはまんま著者の意見と同じである。ただ社会生物学みたいに進化生物学の成果をすぐに援用しようとしているのはあんまり成果を上げられるとは思えないな。ニュートン力学も知らない段階でいきなりロケットを作ろうとしているようなチグハグな印象だ。
学部で物理を専攻していた者にとっては生物学とは難儀な学問だなとも思えた。科学の他の分野が数学と実験という2つの武器で研究できるのに対して、生物学全般では数学を適用しようにも、遺伝子など一部を除いてモデルが複雑すぎて客観的なモデルを作ることが難しい。また、進化生物学に関しては再現実験というのが厳密な意味ではほぼ不可能に近い。進化生物学者というのは普段どういった研究をしているのか、日夜実験と計算をやっていればいい物理学からするとちょっと想像できない。博物学に近いのだろうか。しかし、ことドーキンスとグールドの対立軸に関してはより精密な検証で結論に近いものが出るような気がする。