暗号解読(上) (新潮文庫)

暗号解読(上) (新潮文庫)

暗号解読(上) (新潮文庫)

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

読み終えた。
フェルマーの最終定理が非常に良かったので、同じ著者の本という事で購入。これも良かった。
前作は全く畑違いということもあって内容には素直に感心するばかりだったが、今回は暗号関連の理工書を数冊は読んだことがあった上で読んだので、著者が難しい概念を解説するのを裏から見ている感じだった。
上巻は古代から中世までの暗号の歴史について。暗号が発展していった歴史を当時の歴史的事件と絡めつつ語っていかれているのはもちろん面白いのだけど、それに留まらず当時の暗号解読の歴史と合わせて語られているのが興味深い。暗号を使って情報を秘匿したい側とそれを解読してでも読みたい側というのは常に居たわけで、それが歴史上どういう力関係にあったのかまで言及している。
結論だけ言うと、歴史上では多くの局面で解読側が優位だったらしい。とはいっても実際には暗号を利用する側が当時の暗号解読能力を過少評価して、当時使えた最も優秀な暗号を使うことなく手を抜いたのが原因だったようだ。これはエニグマの解析にも言えることで、エニグマの装置を作った人間の想定した通りに利用されていれば連合国側が解読することは不可能だったはず。本作中でも詳細に言及されている通り、運用上での手落ち、アルゴリズム上でのショートカット、スパイ行為、力技など複数の要因でようやく辿り着けた結果なのだ。
下巻は現代のコンピュータ上での暗号や量子コンピュータと量子暗号など現代的な話題。仮にも現代のエンジニアのはしくれなので、RSAアルゴリズムぐらいは知っていたが、実際にはDiffie-Hellmanの鍵交換の方が先に開発されていたことや、Diffieが一方向関数による公開鍵暗号の可能性まで言及していたことは初めて知った。RSAの3人の業績ばかりに目が行くことが多いけど、真に偉大なのはDiffieの方なのかもしれない。あとは世間的にこれらの暗号が発明されたのは上記の人物として知られているが、実際にはイギリスの情報機関の方が先に開発していたのか。暗号の分野では成果を公表しないだけで政府機関の方が数年先を行っているとは言われているが、実際に開発の経緯を読むにつけやはり本当なのかもしれないという思いを強くした。
暗号の歴史が教える通り、当時使える最高強度の暗号を使っていれば情報は安全なのだけど手を抜いて適当な暗号を使っていると本当に解析する気のある相手は解読してしまっているという状況は案外現代でも変っていないのかもしれない。RSAの1024bitの鍵は一般的には十分安全とされるけど、政府機関にとってはこの程度の長さは解析可能なんだろう。NSAの地下には巨大な量子コンピュータが稼働していて、なんてのは陰謀論が過ぎると思うけど、非常に高価な専用ハードウェアと非公開のアルゴリズム的なショートカットの一つや二つは持っているというのは十分に有り得る話だ。