ホビーストの時代再び

AmazonKindleの開発キットを無償で公開することになったそうな。AndroidSDKはその当初から無料だったし、アプリの公開についても大幅な支援を受けられる。AppleiPhoneMacを持っているという縛りはあるものの、開発環境は無償公開しているし、公開や販売に際しての敷居も個人でもそれほど負担にはならない額だ。
オープンソースのムーブメントがあったにせよプラットフォームの立ち上げにあたってSDKを無償公開するというのはホビーストの力を使おうという意図の表れであると思っていて、実に象徴的な動きだ。
コンピューティングの中心がPCから携帯電話などの小型デバイスに移りつつあるというのは20年に一度ぐらいのターニングポイントだと思っていて、過去にあった同様の移行期にも似たような動きがあった。たとえばメインフレームからミニコンピュータへの時代にはDECの営業マンがPDPのマニュアルを潜在顧客に無償でばら撒いていたそうである。マニュアルといっても当時のそれは現在においてはほとんどSDKに近い情報が記載されていたようなものだった。PCの黎明期においてはBASICが標準搭載されているのが常識だったし、利用と開発が未分化だったこともありユーザーはホビーストとして開発を行うことへの敷居が非常に低かった。
コンピュータの形態が大幅に変化するにあたって、メーカは色々と用途を想定して販売するのだろうが、実際にはどのように使われるかについてあまり決めつけてしまっても上手くいかないのではないだろうか。PCの立ち上げ時にVisiCalcのようなキラーアプリがヒットすることまで想像出来ていただろうか。あるいは、当初から狙ってキラーアプリを作ろうとしたプラットフォームが成功した例があるだろうか。
必要なのはプラットフォーム立ち上げ初期にリスクを取って新しい使い方を模索してくれるユーザあるいはベンチャー企業の手を借りることだろう。iPhoneのアプリの大半がクズアプリであったとしても、その0.01%が新しい使い方を提案できるようなアプリケーションであればその戦略は大成功だろう。
WindowsCEがその立ち上げ初期にSDKを個人相手に無償か非常に低価格で配布せず、既存プラットフォームと同じようなアプリケーションを自前で移植して終わりにしてしまったのは数ある敗因の中の一つであったのではないかな。ビル・ゲイツの「ホビーストへの公開書簡」ではないが、Windowsプラットフォームでの個人開発者の力を知らないはずはないMicrosoftにとっては非常に残念な選択だったと思う。