IP税の導入が難しい理由

私自身はこの案はもうちょい検討した方がいいと思っているのだけど、現時点での問題点を挙げてみる。

そんな事現在のICANNでは意志決定できないから無理だよ

わりと寄り合い所帯な現在のICANN。発足してから強制力のあるような決断をしたことがない。
現在の既得権益を持っているアメリカのISPの発言力が大きいとされているのに、その既得権益を否定するような決断を下せるわけがない。そもそもそんな重要な議題を決議できる権限がないかもしれない。
あんまり強権的な決議を行うと、アメリカ政府やISPがそっぽを向く可能性も否定できない。そうなってくるとインターネット始まって以来の分裂の危機。そんなときのために第二インターネットをだな(ry

強制的に徴税するような仕組みがないから無理だよ

最近、JPNICが歴史的経緯があるPIアドレスの身元を調査したが全然情報が集らなかったという実績がある。JPNICは厳密な管理団体のように思われているけど、アドレスの利用者についても完全には把握していないのが現状。
ただ、これにはある程度技術的に追跡可能な部分もあって、ルーティングされている以上BGP4なりで経路が広報されているので、ASまでは特定できると思われる。ASは一般的にISPや学術ネットワークや大企業なんだけど、こういう妙なアドレスはISPが広報しているだろう。JPNICの徴税官がISPNOCに乗り込んでいって今すぐ広報を止めろという強制執行みたいなことをやればいいかもしれない。その場合ISPと顧客との契約をJPNIC側で上書きして無効にできるのだろうか。契約があればまだよくて、このCIDRは誰のだとISPに詰め寄ったら首をかしげられるだけという最悪のパターンも考えられる。
そもそもこの発想の元ネタである電波や土地の売買は国家単位で徴税なり許認可の対象となっているから出来るものと、多国籍で管理主体が明確ではないインターネットを同じ方法論で語ること自体に無理がある。

経路が細切れになるから対応できるルータが作れないよ

JANOGで出ていた、そもそも作れないとする説。
どこまで細切れになるかに依るが個人的には無理ってことはないと思う。だが、買えたとしても少なくとも価格上昇の変曲点の先にあることは間違いないと思うので、ISPは今までより遥かに高いルータを買わされるハメになることになる。

経路爆発の影響は算出不可能だから無理だよ

よくあるCIDRの移行があったとしてもコストが発生するのは、移行元と移行先の団体だけというもの。
実際にはインターネット全体の経路が増大するので、ほぼ全てのASが影響を受ける。中規模以上のISPは全部影響を受けるといってもいい。これらのISPがフルルートを持つルータの頭を全て一段階上位の物に取り替えると考えても膨大な額が必要。ではトータルで幾らくらいかと言われると、現時点で正確に答えることができる人は居ないだろう。
ひじょーに、おおざっぱな見積りをしてみると以下のような感じか。

  • 世界中で30000位のASが運用中。うち国内では600ちょっと
  • 大規模ISPは国内で50社程度
  • 中小規模ISPは国内で300社程度
  • それ以外の国内で団体250社
  • それぞれBGPルータを10台、5台、2台運用しているものとする*1
  • 合計2500台
  • 世界と日本の規模比を50:1と考えれば上記の50倍のISPが世界中にある
  • 合計125000台。国内は特にリッチな作りだから実際は100000台以下かな
  • コアルータとしてCatalyst6500を想定。ただしこれは現在では安価な部類に属するかもしれない。
  • コアルータの頭としてSUP720-3Bを想定。これを同3BXLにアップグレードする必要があると考える
  • 実際には頭に合わせて全てのインターフェースをアップグレードしなければ本当は意味がないがここでは省略
  • 交換後の物品のList priceは$40,000。御社価格で半額で買えたとする。

合計で$2,000,000,000(=$20億=2400億円)。ただこれは購入費用のコアな部分だけなので、人件費とか他の必要物品とかを合わせればもう一、二桁ぐらい上かも。
途中の数字を見ればわかるが、これは非常に概算。桁が上下2桁であっていれば御の字程度かと。
必要経費とはいえ顧客に素直に転嫁はできないだろうし、それこそ税金の還元を配るのだろうか。算出根拠は?購入した伝票を付けて還付を申請でもする?

*1:AS4713とかAS17676クラスなら3桁に届くぐらいのBGPルータを運用しているんじゃないかなー、と予想